ふしぎないのち

神が働く不思議な体験

使徒二十二章 味方が敵となる

 

 律法に厳格で熱心なパリサイ人であったパウロは、復活のキリストに出会い、忠実なキリストのしもべに変えられました。

 すると、熱心なユダヤ教徒たちに命を狙われる者となったのです。

 

 ユダヤ人たちは殺到してパウロを捕え、宮の外へ引きずり出し、パウロを殺そうとしていました。

 エルサレム中が混乱状態に陥っているという報告が、ローマ軍の千人隊長に届くと、千人隊長はただちに、兵士たちと百人隊長たちとを率いて、彼らのところに駆けつけました。

 

 人々は千人隊長と兵士たちを見て、パウロを打つのをやめました。千人隊長はパウロを捕え鎖につないで兵営に連れて行くように命じると、途中で、パウロは千人隊長の許可を得て、人々に話し始めました。

 

 「私(パウロ)はキリキヤのタルソで生まれたユダヤ人ですが、この町で育てられ、(律法学者)ガマリエルのもとで私たち(ユダヤ民族)の先祖の律法について厳格な教育を受け、今日の皆さんと同じように、(イスラエルの神、聖書の)神に対して熱心な者でした。

 私(サウロ)はこの道(イエスの教えを宣べ伝える者)を迫害し、(キリスト信者の)男も女も縛って牢に投じ、死にまでも至らせたのです。(私は今の皆さんと同じユダヤ教徒、皆さんの同士でした)

 このことは、大祭司も、長老たちの全議会も証言してくれます。この人たちから、私は(ユダヤ教徒の)兄弟たちへあてた手紙(諸会堂あてに、イエスの弟子たちを縛って牢に投じることを書いたもので、サウロがイエスの教えを信じる人々を見つけ次第縛り上げてエルサレムに引いて来るための手紙)までも受け取り、ダマスコへ向かって出発しました。(サウロは殺意に燃え、率先してイエスの弟子たちを迫害する者だったのです)そこにいる者(ユダヤ人のしきたりを破るように騙す男イエスの教えに従うユダヤ人たち)を縛り上げ、エルサレムに連れて来て処罰するためでした。(ユダヤ教徒たちは、イエスが、モーセの律法に背かせるような教えをユダヤ人に広めていると思っていたのです。それゆえ、イエスは神を冒瀆する者、死刑に値する罪深い者だと信じて、聖なるイスラエルから聖絶するために、イエスを十字架につけました。イエスを処刑するのは、聖なるイスラエルの神への正しい奉仕だと信じたのです。そして、イエスの死後、イエスの教えを広めるイエスの弟子たちを迫害することで、神の奉仕に励んでいると信じていました)

 ところが、旅を続けて、真昼ごろダマスコに近づいたとき、突然、天からまばゆい光が私(サウロ)の回りを照らしたのです。

 私は地に倒れ、『サウロ、サウロ。なぜわたしを迫害するのか。』という声を聞きました。

 そこで私は答えて、『主よ。あなたはどなたですか。』と言うと、その方は、『わたしは、あなたが迫害しているナザレのイエスだ。』と言われました。」(使徒22:3-8)

 

 パウロは、かつて自分もイエスとイエスの弟子たちを殺意をもって迫害するユダヤ人であったこと、しかし、ユダヤ人たちが十字架で処刑したナザレのイエスが、復活したキリストとなって、パウロにお現われになったことを話したのです。

 

 イエスの教えに敵対し、イエスの弟子たちを迫害することに熱心であったパリサイ人のサウロは、イエスの教えを信じず、イエスの教えの道の者たちを迫害していたにも関わらず、死から甦ったナザレのイエスがサウロに現われて、十字架につけたイエスが、神の遣わされた神の御子キリストであったことを悟ったのでした。

 

 イエスの教えは神を冒瀆する不義の教えではありませんでした。神をあかしする真実な教えであり、神のことば、真理のことばだったのです。

 

 思い返せば、イエスを十字架につけた時、様々の不思議な出来事がありました。

 正午から三時まで、真昼なのに太陽の光は失われ、全地は暗くなりました。また、大きな地震が起こって岩は裂け、神殿の幕は真二つに上から下に裂けました。

 イエスの十字架には『これはユダヤ人の王イエスである』との罪状書きが掲げてありました。

 イエスは、最後まで弁明することなく、屠り場に引かれて行く小羊のように口を開かず、十字架につけられました。

 

 十字架にかかられたイエスは叫びました。

 「わが神、わが神。どうしてわたしをお見捨てになったのですか。」(マルコ15:34)

 「父よ。わが霊を御手に委ねます。」(ルカ23:46)

 「完了した。」(ヨハネ19:30)と言われ、イエスは頭を垂れて息を引き取られました。

 

 聖書には次のように記録されています。

 「百人隊長および彼といっしょにイエスの見張りをしていた人々(異邦人)は、地震やいろいろの出来事を見て、非常な恐れを感じ、『この方(十字架につけられたナザレのイエス)はまことに神の子であった。』と言った。」(マタイ27:54)

 「この(様々な)出来事を見た百人隊長は、神をほめたたえ、『ほんとうに、この人(ナザレのイエス)は(罪のない)正しい方であった。』と言った。」(ルカ23:47)

 

 律法の下にいない無割礼の異邦人は、十字架のイエスを見て、また、様々な出来事を見て、イエスは処刑されるような罪人ではなく、正しい人で神に愛された者、神の子である、と告白するほどに、神の臨在に触れていたのです。

 

 一方、同じ光景を見ながら、イエスを十字架につけた祭司長やパリサイ人たちは、神の怒りが十字架上のイエスに下ったのだ、と思ったことでしょう。

 

 イエスが三日目に甦ると語っていたことを聞いた祭司長、パリサイ人たちは弟子たちがイエスのからだを盗み出して、イエスが甦られたと民衆に言いふらさないように、イエスの墓の入り口を大きな石で封印して墓の番をする番兵を置きました。

 

 しかし、イエスの弟子たちではなく、御使いが現われ石をころがして、その上にすわりました。それを見た番兵たちは、御使いを見て恐ろしさのあまり震え上がり、都に来て、起こった事を全部、祭司長たちに報告しました。

 祭司長たちは民の長老たちとともに集まって協議し、兵士たちに多額の金を与えて、「『夜、私たち(番兵たち)が眠っている間に、(イエスの)弟子たちがやって来て、イエスを盗んで行った。』と言うのだ。」と命じました。

 

 「そこで、番兵たちは、金をもらって、指図されたとおりにした。それで、この話が広くユダヤ人の間に広まって今日に及んでいる。」(マタイ28:15)

 

 祭司長たちは真実を隠蔽し、ユダヤ人たちは隠蔽された偽りの証言を信じることとなりました。

 しかし、復活のキリストに出会ったサウロは、真実を知ることとなりました。そして、サウロが熱心に迫害していたナザレのイエスは、死から甦られて永遠に生きられるメシアであることを悟ったのでした。

 

 サウロに手を置いて祈ったアナニヤは、サウロに言いました。

 「私たち(ユダヤ民族)の先祖の神は、あなた(サウロ)に御心(真実)を知らせ、義なる方(罪を取り除く神の御子イエス・キリスト)を見させ、その方(復活されたイエス・キリスト)の口から御声を聞かせようとお定めになったのです。

 あなたはその方(主イエス・キリスト)のために、すべての人に対して(異邦人に対しても)、あなたの見たこと、聞いたことの証人とされるのですから。

 さあ、なぜためらっているのですか。(イエスの弟子たちを迫害することに熱心だったサウロは瞬時に従うことができませんでした)立ちなさい。(決断しなさい)(サウロにお現われになったイエス)その御名を呼んでバプテスマを受け、自分の罪を洗い流しなさい。』」(使徒22:14-16)

 

 サウロが殺意をもって迫害していたのは、神の御子イエス・キリストであり、イエスの弟子を迫害することはナザレのイエスを迫害することでした。

 

 キリストのバプテスマ(聖霊のバプテスマ)を受けたサウロの目からうろこのような物が落ちて、サウロの信仰は一変したのです。サウロは、生まれ変わりました。

 サウロは、パウロに生まれ変わり、ナザレのイエスは神の御子キリストであると大胆に宣教する者に変えられたのでした。

 

 すると、それまで、サウロとともにイエスの弟子たちを迫害していたユダヤ教徒たちの標的となりました。サウロは彼らにいのちを狙われました。

 なにがパウロだ。おまえは私たちの先頭に立って働いていたサウロではないか。おまえは、私たちの手で牢に投じられる者たちの仲間になったのか。それは、私たちユダヤ人への裏切りではない。神への裏切りだ。おまえは呪われた者だ。おまえは殺されなければならない。

 

 かつて、サウロがイエスの弟子たちにそうであったように、ユダヤ人たちはイエスを告白するパウロに殺意を持って執拗に追い回します。

 彼ら(ユダヤ人たち)は怒りをもって叫びます。

 「こんな男(パウロ)は、地上から除いてしまえ。生かしておくべきではない。」(使徒22:22)

 

 サウロはイエスの弟子たちを殺意をもって迫害して来た者です。イエスの弟子たちは、サウロを恐れています。

 イエスの弟子になったサウロには、居場所がありません。サウロをパウロに変えようとも、サウロのしたことの記憶はなくなるものではありません。

 

 サウロもパウロも、ユダヤ人たちの記憶の中に忌むべき事実が残るのです。

 イエスのしもべとなったパウロは、祭司長やパリサイ人たち、民の長老たち、かつてサウロが所属していた側のユダヤ人たちにいのちを狙われます。

 回心しキリストの弟子となったパウロですが、ユダヤ人たちに迫害されているイエスの弟子であるユダヤ人たちにとって、サウロは自分たちを迫害した恐ろしい人です。

 

 主はパウロに現われて言われました。

 「急いで、早くエルサレムを離れなさい。人々がわたし(イエス・キリスト)についてのあなたのあかしをを受け入れないからです。」(使徒22:18)

 「行きなさい。わたし(主イエス)はあなた(パウロ)を遠く、異邦人に遣わす。」(使徒22:21)